アルティ法律事務所(弁護士瀬戸仲男)のブログ徒然草

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◆いま話題の「地面師」セミナー【第2回】◆

 

「地面師セミナー」のレジュメの公開、第2回です。

今回は「CHARTⅡ」(地面師事件の登場人物)と、

「CHARTⅢ」(地面師事件の典型的パターン)です。

次回は、なぜ買主はだまされるのか、という基本的な視点からアプローチします。

 

CHART

 

 

【地面師事件の登場人物】 ***********************

 

1 「地面師」とは、どんな人たちなのか?

実は、これがよくわからない!?(素性を隠す詐欺師だからねぇ。)

 

地面師たちは、単独犯ではなく「グループ」で行動する。

地面師事件に登場する人たちのうち、どこまでが地面師グループなのかが、実はわかっていない。

 

2 地面師事件を振り返ってみると、色々な人物が登場している。

  グループの中で「役割分担」(分業化)がなされている。

 

下図の登場人物たちのうち、「地面師グループ」と「そうでない者」との境界(線引き)が明確にはわからない。

 

下図の右側の人たちは、「私もだまされていた。被害者だ。」などと言って言い逃れ(?)をする。

捜査機関の方々(2課の刑事さんたち)の苦労は察するに余りある(知能犯は手ごわい相手である)。

 

              世話役  ブローカ-

              代理人   コンサルタント

主犯 ・・・・・・・・・・・ ニセ地主 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 買主

(プロデューサー)  (成りすまし犯)    仲介業者      (カモネギ君?)

図面師                      不動産業者

印刷屋                       司法書士

手配師                        弁護士 

 

 

 

 

CHART 

 

 

    【地面師事件の典型的パターン】 ********************

 

     1 地面師たちは、住宅地図(航空地図)を利用して、対象地候補を探す。

 

         ※地図から対象地候補を探す作業をする輩を「図面師」という。

 

     2 対象地に適した土地(つまり、“地面師に狙われやすい土地”)とは?

 

      (1) 更地、空き地、駐車場 etc.

           *売りやすい。

           *建物があると、買主側が現地調査し聞き込みした際にバレやすい。

 

      (2) 都心部で立地が良い土地 

           *買い手多数あり。→売りやすい。

           *近所付き合いが希薄で、聞き込み困難。→バレにくい。

 

      (3) 所有者が高齢 

           *管理されていない可能性大。

           *代理人コンサルタントなどが窓口になっても、疑われにくい。

 

      (4) 長期間にわたり担保権設定されていない土地(無担保、無借金)。

        名義変更(所有者変更、所有権移転登記)されていない土地。

           *所有者が高齢化している可能性大。

           *管理してない可能性大。

 

      (5) 所有者が遠方に居住 

           *所有者が、気が付かない可能性大。

           *買主(カモネギ君)も、所有者の情報を得られにくい。

           *たとえ遠方であっても、費用をかけて調査すべきであるにもか

            かわらず、調査を仲介業者任せにしてしまいがち。

 

      (6) 高額物件大きい(地積が広い)物件 

           *取引額が大きく、利益が大きい。

           *地面師にとって効率的、かつ、腕が鳴る(?!)。

           *面開発に適した物件は貴重であり、買い手が殺到    etc.

 

 

     3 対象地候補が決まったら「現地調査(実地踏査)」をする。

          *買主側からの質問に答えられるように、現地や周辺を調べる。

          *悪い点も確認する。早く売るために値引きすることが多いが、買主から値引きの

           理由を 聞かれた際に答えられるようにする。

          *近所の人間関係(近所付き合い)を確認する。

          *近所の人を通じて、本人確認されるおそれの有無、可能性の確認。

          *あるいは、近所の人に成りすます準備をする。

 

     4 本物の地主(真の所有者)の情報をできるだけ多く集める。

          *ニセ地主(成りすまし犯)を仕立てあげる際に、本物らしく見せる。

          *地面師は「演技力」がキーポイント!

 

     5 登記を確認する。

          *所有者が遠方に居住している物件を絞り込み、対象地を決定する。

 

     6 対象地を決定したら、「売主」を装って、あるいは、売主の「代理人」だと偽って、

      仲介業者に売却依頼をする(物件情報を流す)。

        ↓

      仲介業者(不動産会社)は、知らないうちに詐欺師の共犯にされてしまう可能性あり

      要注意!

        ↓

      どういうことか?

        ◆仲介業者のみなさんは、「良い物件」の情報が来ると、喜び勇んで買主を探そうと

          しません か?(気持ちはよくわかるが…)

        「誰でも飛びつくような物件」、「のどから手が出そうなくらいに良い物件」の情報が

        来たら、ちょっと立ち止まって、深呼吸を!

        くれぐれも間違いの無いように、注意すべし!

        (営業成績だけに走っていると大変なことになるかも?!)

 

     7 ニセ地主(成りすまし犯)の人選、予行演習

         *ニセ地主(成りすまし犯)を探す役割の「手配師」が存在する。

         *手配師のネットワークがある。

 

       ※ニセ地主(成りすまし犯)の条件

        ①真の所有者に年恰好が似ている

        ②身元が容易にわからない(目くらましの住所移転)

        ③犯罪歴が無い

        ④会話がスムーズ(あるいは、逆に、無口・ボケたふり)

        ⑤記憶力が良い

        ⑥演技力がある

        ⑦素人っぽく見える    etc.

 

      ※手配師がどこから候補者を探してくるのかは、わかっていない。

       演技力があって、記憶力も良く、会話がうまい。しかも、身元が容易に発覚しない人、

      となると、過去に客商売をしていて成功していたが、今は落ちぶれてひっそりと暮らして

      いる人(水商売、ホステスなど)…か?

 

      ※プロデューサーである主犯(黒幕)は、ニセ地主(成りすまし犯)候補者を相手に面接をし、

       予行演習をする。

 

      ※主犯にとって、ニセ地主(成りすまし犯)は、イザとなったときに切る「使い捨て」の

       逮捕要員(トカゲのシッポ)。

       しかし、成否を分けるキーマンでもあり、慎重に人選する。

       成りすまし犯の報酬は、数十万~数百万とも言われている。

 

     8 小道具をそろえて、文書を偽造

       ※買主をだます(信用させる)ために偽造する書面等

          ①登記関係書類(権利証、登記識別情報通知書)

          ②登記事項証明書(登記簿)

          ③固定資産評価証明書

          ④印鑑証明書 …… 実印も偽造

          ⑤身分証明書(運転免許証、パスポート、保険証、住基カードなど)

          ⑥委任状

          ⑦公正証書(本人確認の証明書)

             ◆公正証書って、100%信用できると思いますか?

             (そりゃぁ、思うよね。普通はね。だって「公正」証書だもの)

 

     9 偽造書面等を使って、相続登記など所有権移転登記を申請。

         *ウソの登記申請をすれば、電磁的公正証書原本等不実記録罪(同共用罪)で、

          5年以下の懲役(刑法157条)

         *更に、詐欺罪により10年以下の懲役(刑法246条、未遂処罰規定あり)

         *地面師事件の場合、被害額が高額であるので、たとえ初犯であっても、

          実刑は免れない(執行猶予は付かない)。

 

 

     10 “代理人”が、買主予定者と面談

        *主犯は決して表に出ない(後ろで糸を引いている「黒幕」)。

        *ニセ地主も、なかなか表に出てこない。

        *地主の「代理人」などと称する者が取り仕切る。

        *偽造書面等を見せて、安心・信用させる(→だます)。

 

     11 取引パターン

     (1) 基本パターン

        *登記上の所有者に成りすまして、直に売却

        *登記上の所有者から所有権移転登記をして、直に売却

 

     (2) 間に数社(者)介在させるパターン

       間に他者をかませることの表向きの理由は、

      ① 中間省略登記を行って、節税(登録免許税などを節約)する。

      ② 間に入る関係会社に利益を落とす。

      ③ 第1売買の売買契約書を作成(虚偽の内容)して、その契約書をカモネギ君(買主、

       だまされる被害者)に見せて信用させる。

     などという理由。

 

    ❶<他人物売買パターン>(民法560条)

 

      *所有者から買って(第1売買)、転売(第2売買)するパターン

      *所有者が第1売買を実行してくれるのか? が問題だが、ニセ地主(成りすまし犯)が

       (ウソの)売却を約束している。

      *業法(宅地建物取引業法)では、不動産業者(宅建業者)が他人の所有する不動産

       について、自らが売主となる売買契約が、原則として、禁止されている。

       但し、所有者との間ですでに売買契約や売買予約などを締結している場合は、例外的に

       認められる。

     *他人物売買の場合、第1買主(不動産業者)が契約を結んだ時点では、その不動産業者は

      所有者と契約書を取り交わしただけに過ぎず、所有権移転登記はなされておらず、せいぜい

      仮登記(売買予約の仮登記)を付けるだけである。

      このような状態のままでも不動産業者(第1買主、転売人)が第2買主(カモネギ君)に物件を

      売却することはできる。

      最終的に予定されている形式は、登記手続的(技術的)に不動産業者からの所有権

      移転登記ではなく、第1売主(所有者)からの所有権移転登記(中間省略登記)の形式をとる。

 

 

    *「他人物売買」の制限はあくまでも一般客(エンドユーザー)を保護するためのものであり、

     宅建業者同士であれば「プロ同士の取引」として、他人物であっても売買が可能とされている。

 

    Cf. 第1売主は本物だが、第1買主(第2売主、転売人)が地面師で、第2買主から売買代金を

      受領して消えるケースもある。

      このケースでは、第1売主が本物なので、第2買主が詐欺を見抜くことができずに信用する

      おそれが大きい。

 

    Cf.「積水ハウス事件」は他人物売買パターンのケース

     第1買主(不動産業者)がニセ地主(売主)から購入した後に積水ハウスに転売(予約)する

     という方法で行った取引である。

     不動産業者間では、このような取引行為は珍しくはない。バブル期の頃には、複数の第三者

     (不動産業者)が介在して転売を繰り返し、取引のたびに価格を釣り上げるといったケース

     もあった。

 

    ❷<契約上の地位の移転パターン>(民法改正法539条の2)

 

       *「契約上の地位」というものを譲渡することは可能(適法)。

       *例えば、第1売買の「買主の地位」を譲渡するパターン

       *但し、契約の相手方当事者(第1売買の売主)の承諾が必要で、この相手方当事者も

        ニセ地主の地面師グループの一員

 

    ❸<三ためパターン>(民法537条)

 

       *「三者のためにする契約」を利用するパターン

       *買取転売業者が投資家向けに投資マンションを1棟売りする際などに利用されることが

        多い(多くは適法な取引行為)。

       *買取転売業者にとっては便利だが、地面師らの片棒を担ぐ結果となるおそれがある

        ので、要注意!

 

    (3) 所有権移転の仮登記が付いた物件について、所有権移転を何回も繰り返すパターン

 

    (4) 多重詐欺のケース

 

        *地面師は、まず、他人の土地の所有者に成りすまして、第1買主(被害者)に売却して

         代金を詐取する。

        *更に、地面師は、その第1買主(被害者)に成りすまして、次のターゲット(第2買主、

         第2の被害者)に売却して代金を詐取する。